協調性の改善について

今日は協調性の改善についての簡単レポートを理学療法士が公開していきます^^

運動の協調性

運動を遂行するには、十分な関節可動域や筋力が必要である。しかし、その運動がある目的を達成するためのものである場合、可動域や筋力だけでは不十分である。たとえばガラス容器に入った水をこぼさずに全て飲むには、いくら筋力や可動域が十分であっても、それだけでは目的は達せられない。腕や手を動かすときの力、速さ、方向などの調節が必要不可欠である。このように運動が正確、円滑かつ合目的的に行われることを運動の協調性といい、そのように調節された運動を協調性運動という。そのためには運動に関与する筋・筋群が協調して効果的に働く必要がある。協調運動は、次の3つの要素からなる。

①Spacing:身体または身体の一部を動かす空間中での方向や位置決定、身体の安定性、そもために必要な筋群の選択
②Grading:筋の収縮・活動の程度
③Timing:動作の開始および動作中の時間的調節、筋収縮のタイミング

協調性運動が達成されるためには、その時々の状況や環境に応じてこれらの要素が適切に調整される必要がある。もし、その調整が不適切であれば修正や訂正が必要となる。
修正や訂正に必要な感覚系からの情報は主に小脳で統合・処理される。その情報はさらに大脳皮質や大脳基底核に送られて、運動が調節される。このように、表出された運動の結果から運動を調節することをフィードバック制御といい、そのシステムをフィードバック機構という。

協調性運動障害

協調性運動障害は、前述した3つの要素のいずれかに問題があれば生じることになる。
また、神経系における協調性運動の監視システムのいずれかに異常が生じた場合も、運動の協調性は障害される。原因別の協調性運動障害は次のようなものがある。

①特定の筋群の筋力低下による協調性運動障害(末梢神経損傷など)
②疼痛・スパズムによる協調性運動障害
③関節の機械的障害による協調性運動障害(靭帯損傷や捻挫など)
④痙性・固縮など筋緊張の亢進に伴う協調性運動障害(脳卒中片麻痺など)
⑤感覚入力欠如による協調性運動障害
⑥小脳の病変に伴う協調性運動障害
⑦脳幹・大脳基底核の病変に伴う協調性運動障害
⑧前庭・迷路の病変による協調性運動障害

小脳性失調症

ヒトの動作は主働筋、拮抗筋、共同筋を含む多数の筋の協調した共同運動からなり、この運動のプログラムを作るのが小脳の働きである。この働きが障害され共同運動に異常をきたしたものを共同運動不全と呼び、小脳性失調症の本態と考えられる。
※小脳の運動制御に関する構造

大脳連合野
大脳辺縁系

小 脳 大脳運動野 大脳基底核

中脳・橋

感覚入力 脊髄・脳幹 運動出力

小脳の働きは、1)運動を適切に、しかも迅速に開始する
2)共同運動を行う
3)筋緊張を維持し、姿勢を保持する
などがあり、これらの機能を果たすために大脳運動野(皮質)、中脳・橋、脊髄な
どとの回路を有し、情報のやり取りを行っている。この回路の一部でも障害が生じ
ると小脳失調が生じる。

原因疾患
小脳性失調症を起こす疾患は、大きく3つに分けられる。
1) 小脳血管病変
2) 小脳腫瘍
3) 小脳変性症

大脳性失調症

前頭葉・側頭葉・頭頂葉などの障害でおこるとされている。最も知られているのは前頭葉性運動失調で、多くは腫瘍のときに見られる。また、前頭葉性運動失調は小脳性のものと似ており、病巣と反対の身体に出現する。前頭葉の機能障害として手足の動きが、ぎこちなくなる(前頭葉性失調:前運動領野の近くで小脳皮質と連絡する線維が損傷)、運動性失語症(他人の言葉は理解するが、話すことはできない)、精神活動の抑制と感情や理性のコントロールが難しくなる(意欲の低下・無関心、表情の低下)などが現れる。また、頭頂葉の機能が障害されると複合感覚(2点識別覚、皮膚書字覚、立体認知感覚)が障害される。その他にも、指失認、左右弁別障害(左右区別不能)、計算不能、失書などのゲルストマン症候群が出現する。

原因疾患
1)前頭葉型:穹隆部髄膜腫・正常圧水頭症
2)頭頂葉型:腫瘍・血管障害
3)視床型 :視床症候群

脊髄(後索)性失調症

脊髄後索性の運動失調は深部感覚入力の障害による失調で、脊髄後索以外でも末梢神経から視床への入力経路のどの部位が障害されても同様の失調が起こり得る。深部感覚には関節覚(運動覚・位置覚)、振動覚、圧覚などがあり、感覚受容器は筋紡錘や腱紡錘(ゴルジ器官)となっている。この感覚が障害されると立位保持ができなくなり、さらに閉眼によって体幹の動揺が激しくなり転倒しやすくなる。(ロンベルグ徴候)また、歩行でも同様に暗がりや閉眼では体幹の動揺が激しくなり転倒の危険がある。小脳性失調との鑑別はこの深部知覚の障害の有無で、末梢神経性失調との鑑別は温痛覚の有無で判断できる。

原因疾患
1)脊髄癆:原因は梅毒で30~50歳で発症しやすい。下肢、腰部の電撃痛、膝反射
消失、瞳孔の対光反射消失が3徴候。
2)フリードライヒ運動失調症:常染色体劣性遺伝を示す。20歳以下の若年発症。症候
は下肢優位の後索徴候で腱反射は消失。バビンスキー
徴候、構音障害、知能障害、脊柱側弯などもみられる。

協調性運動障害に対する運動療法

協調性を改善するには、原因に応じて治療を行わなければならない。特定の筋群の筋力低下があり、筋の不均衡のために協調性運動が損なわれているのであれば、弱化筋の筋力増強が必要となる。疼痛やスパズムのために円滑な運動ができないのであれば、物理療法や徒手療法などを駆使して、疼痛やスパズムの軽減を図らなければならない。原因別の分類から考えられるように、協調性運動障害は運動失調を包含する上位概念と考えられる。しかし臨床では、協調性運動障害といえば運動失調を指すことが多い。

目的

①筋活動の正常化
目的動作を運動単位に分割し、それぞれの運動に関与する筋・筋群の、特にGrading、Timingの正常化を促す。

②運動発達順序に従った姿勢の獲得および起居移動動作パターンの向上

③バランス能力の向上
姿勢保持、運動・動作障害、バランス能力の低下は、筋・筋群の活動性の異常(協調性運動の3つの構成障害の異常)から生じた結果と考えられるが、②、③ではさらに監視システム(フィードバック機構)が正常に働くことが不可欠となる。

④筋力強化および筋不均衡の是正
筋力はバランス反応を保証する要素として不可欠であり、筋力強化は重要なプログラムである。

⑤視覚および種々の体性感覚を利用し、運動動作学習に対する集中力を高め、運動さパターンの再学習を図る。

原則

①運動は正確で滑らかにできる程度のものとし、難しすぎる課題を与えて、非協調的な運動の練習にならないように注意する。

②一般的には反復して行う。

③視覚など他の障害されていない感覚を利用する。

④一般的な運動の段階付け(容易→困難)
・運動のスピード:速い→遅い
・運動のパターン:単純→複雑、平面的→立体的
・運動の方向:単一方向→多方的
・運動の範囲:大→小
・重心の高さ:低い→高い
・支持基底面:広い→狭い

⑤運動の切り換えが困難な場合が多い。運動の改善が得られたら、途中で止めたり、再開したりするのも良い。

⑥協調性運動改善の運動療法は注意力や集中力を必要とするため、疲れやすくなる。対象者の状態に合わせて、適宜休憩をとりながら進めていく必要がある。

運動療法の実際

①視覚によるフィードバックを利用して、協調性運動の改善を図るもの(フレンケル体操)
②固有感覚情報を増加させ、協調性運動の改善を図るもの(PNF、重り負荷、弾性緊縛帯)
③運動学習を重視して、協調性運動の改善を図るもの
④その他(振動刺激、皮膚刺激、四肢の冷却、装具)

A、フレンケル体操
脊髄後索障害による固有感覚フィードバック情報の欠如に対し、視覚によるフィードバック情報を利用して、協調性運動障害を改善しようとするものである。感覚性運動失調以外には効果がなく、また、練習した運動以外には効果が転移しないと言われている。
運動を進める順序は以下のとおりである。
①系統的に順を追って行う。(背臥位→座位→立位→歩行時)
②やさしい動作から始める(一側運動→両側同時運動→両側同時異種運動)
③開眼で習熟したら閉眼で行う。
④原則として右から始めるが左右差がある場合は障害の軽い側から始める。
⑤1つの運動を連続して3~4回行う。

B、PNF
PNFとは主に固有受容器を刺激することによって、神経筋機構の反応を促通する方法である。失調症に対するPNFの目的としては、
①運動発達順序に沿った運動能力の発達を促通
②バランス・平衡反応の向上
③協調性の改善
a,運動パターンの切り替え能力の向上
b,運動時の持続的(求心性・遠心性収縮)・安定的(等尺性収縮)筋活動の強化
c,動筋・拮抗筋間の協調的筋活動の強化
d,滑らかな筋収縮の連続的移行の是正
④筋力強化および筋不均衡の是正
⑤視覚および種々の体性感覚を利用し、運動動作課題に対する集中力を高め、運動動作パターンの再学習を図る。ルードによれば、正常な運動は、運動性→安定性→コントロールされた安定性→巧緻性の4段階のレベルを経て発達するとしている。

C、重り負荷
企図振戦が減少することを目的として負荷されることが多い。
生理学的機序としては、重りを負荷することにより
①運動単位発射が増加し、筋紡錘から中枢(小脳)への固有感覚入力が増加
②慣性が増大
③装着部に対して対象者の注意が高まり、各動作に対する集中力が増加
などが考えられる。
装着部位と負荷重量は、対象者別に慎重に選択されなければならないが、上肢(手関節部、上腕部):200~400g、下肢(足関節部、大腿部):300~800g、腰部:1kgが目安となる。

D、弾性緊縛帯
四肢の動揺が減少することを目的として装着される。
生理学機序としては、弾力帯で緊縛することにより
①運動時の抵抗が高まり、筋紡錘からの求心性発射が増加し、中枢への固有感覚入力を増    加
②ゴルジ腱器官、関節受容器からの固有感覚入力を強化
③装着部に対して対象者の注意が高まり、各動作に対する集中力が増加
などが考えられる。
緊縛部位として、上肢では肩関節、上腕、肘関節、下肢では腰部、股関節、大腿、膝関節が選択される。

E、運動学習を重視したもの
フィードバック機構による運動学習を繰り返し、フィードフォワード機構の再構築を図るものである。運動課題を始めから終わりまで一連のものとして遂行できない場合、運動をいくつかの動作に分けて行い、最終的に連続した運動として行えるようにする。一般的には、個々の協調性運動障害を示す動作や運動に対して直接アプローチする場合が多いが、運動発達に基づいて正常な運動パターンを再学習し、それらの獲得過程を通して起居・移動動作の改善を図ろうとする方法もある。

F、背臥位からの寝返り
運動失調患者の寝返りでは頸部および体幹の屈曲を伴う回旋がみられず、頸部・体幹を伸展し下肢で床を蹴って起き上がろうとする(反り返りパターン)。
これに対して、頸部立ち直り反応を利用して、後頭部と下顎を保持して頸部の屈曲・回旋の誘導により体幹の屈曲・回旋を促通し正常パターンの寝返り動作を再学習させる。

G、起き上がり
背臥位から上体を起こそうとすると、バビンスキ-の股屈現象がみられ、下肢が挙上し、起き上がりが困難となる。これに対し、体幹の回旋を十分の加えて側臥位より起き上がる動作を学習させる。

H、長座位・椅子座位の保持
長座位では体幹にリズミック・スタビリゼーションの手技で軽く外乱を小刻みに与え、体幹筋の同時収縮を促す。さらに大きな外乱を与え、平衡反応の個々の運動オーバーシュートを抑制しながら、正確性の高い動作を学習させる。
椅子座位では足底を床から離しての座位保持練習およびわずかに外乱を与えてのバランス運動練習を行う。

I、立ち上がり
運動失調症では、股・膝関節屈曲位での中間姿勢の保持が困難である。
椅子からの立ち上がり動作の中間姿勢を図に示すが、円滑な立ち上がり動作遂行のためには、中間姿勢を保持させる運動学習が必要である。

床からの立ち上がり動作では、四つ這い位からの高這い位への移行および高這い位から立ち上がる際の重心の滑らかな後方移動の運動学習が重要である。

J、立位保持
両足を閉じて揃えた立位姿勢が可能となるよう、立位保持練習を段階的に行う。開眼で両足を20cm拡げた立位保持からはじめて、閉眼,閉脚立位保持へと進める。
身体動揺が激しい場合には、ジョイント・アプロキシメーションの手技(図にて説明)で骨盤または肩甲帯を両手で保持して下方に圧迫を加え、体幹筋、骨盤周辺筋および下肢筋の同時収縮を促通する。
各課題で30秒間の保持が可能となれば、次の課題に移る。
最後の閉眼・閉脚立位が30秒可能になれば歩行が可能になると思われる。

K、立位身体重心移動
両足を20cm程度離した開脚立位姿勢で重心を前後左右に移動する運動練習を行う。運動失調の場合、運動のオーバーシュートが起きる。重心移動動作をかなり遅い速度で行っても、動作の正確性が低下する。したがって、速度を緩徐にし、その間の過剰な重心移動を抑制しながら、動作の正確さを高める必要がある。

L、歩行
運動失調症では歩行の片脚支持の瞬間に急激な膝折れや体幹の動揺をきたしバランスを崩す事がある。支持脚の荷重感覚をしっかりと認識させ、体幹の安定性と下肢の中間姿位の保持を高めるため、骨盤、肩甲帯に術者の両手を置いて下方に圧迫を加え、これらの部位の安定筋群の同時収縮を高める。
開脚での歩行を早急に矯正しようとすると、転倒の危険が増すので好ましくない。
杖歩行に関しては上肢の運動失調の程度を十分に考慮する必要がある(杖を不正確につきバランスを崩す可能性、杖に頼る傾向の増強など)。

M、その他
①振動刺激
下腿筋群への振動刺激による失調症者の立位重心動揺の低下
②皮膚刺激
皮膚受容器からの中枢神経系への入力が運動覚の認知に寄与するという仮説が提唱されており、それに関連したものとしては次のようなものがある。
・失調性歩行に対するテーピング効果
・上肢の失調に対する10Hzの経皮的電気刺激
・凹凸のついた足底板による足底表在覚刺激や、足底感覚閾値よりもやや強い電気刺激による立位重心動揺の軽減(足底からの表在覚入力は陽性支持反応を引き起こし、姿勢制御に役立つと推測される)
③四肢の冷却
前腕の冷却による企図振戦の減少(45分以上効果の持続)
④装具
・主な目的は、関節の固定により制御すべき関節数を減らす、あるいは関節運動の自由度を減少させることで、目的動作の遂行や姿勢の安定性を得ることである。
・下肢装具としては、膝装具や短下肢装具などが用いられる。
・米国のOTのGillenは、手関節固定装具や頸椎装具を用い、さらに環境も利用して、基本的ADLの改善を図っている。
・新しい靴型装具として、重量可変型靴型装具が開発されている。これは靴底の形状を工夫して、靴に重り負荷機能を持たせたものである。片足500gに靴の自重を合わせた800gが、歩行の改善に最も有効であったと報告されている。